2025.1
吉村洋介

剛体針分子の衝突と散乱のはなし  ~~ 丸くない分子の衝突のこと

図 0-1. 無限に細い剛体針同士の衝突

分子衝突については、気体分子運動論や気相反応の速度論に関わって物理化学で教わります。 でもそこで出てくるのは、もっぱら丸い分子(異方性のない分子)の話で、 剛体球や逆べきポテンシャル(\(\propto r^{-n}\))、LJ ポテンシャルなどは出てきても、 棒状の分子、2 原子分子など、形を持った分子の衝突についてはまず登場しません。

そうなるのはある意味当然で、 分子が形を持つ(異方性を持つ)ことで、 回転運動の寄与、相互作用の際の分子配向など、 お話が一挙に複雑になります。 分子間の相互作用が瞬時に終了する剛体の場合でも、 衝突・散乱の過程は入り組んだものになってきます。

このおはなしでは、剛体の中でも極め付きの単純な剛体、 無限に細い(太さのない)針からなる気体中の衝突を取り上げます。 はなしの中では、 剛体球の衝突の話を簡単に見た後、 剛体針を取り扱う上での難しさ、 そして1回の散乱の過程で生じる複数の衝突(ガタガタ衝突 chattering collision)の問題などについて紹介しようと思います。 丸くない分子の衝突を扱う上での困難がどのようなものか、 その一端に触れていただければ幸いです。

ここでは分子が出会い離れるまでに複数回の衝突が起きる現象を「ガタガタ衝突」と呼んでいますが、 一般に通用している言葉ではありません。 英語では chattering collision と呼ばれます。 旋盤作業で加工する材料がビビる(chattering)のをガタと呼ぶのに倣って、 今のところぼくはガタガタ衝突と呼ぶことにしています。 ガチャガチャ衝突、ビビ衝突などと呼んだりもしましたが、 何かカッコいい名前があればいいんですが・・・

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