2025.1
吉村洋介
剛体針分子の衝突と散乱のはなし

4.おしまいに

もう 30 年ぐらい前のこと、 物理化学研究室に 4 回生で入ってきた向山綾子さんがぼくと一緒に研究をやりたいと言ってきました。 それも平衡論をもっぱらにするぼくに、 ダイナミクスをやりたいというのです。 そこで少し興味を持っていた理想気体の動力学シミュレーション、 細い剛体針分子からなる流体の計算機シミュレーションに取り組んでもらうことにしました。

少々のことには物怖じしない向山さんでしたが、 さすがに剛体針のダイナミクスには手を焼きました。 ぼくもあれこれ手伝いをして、 何とか剛体針流体の動力学シミュレーションのプログラムが動くようになったのは、 1 年たって向山さんが大学院に上がってからでした。 そしてその中で、ぼくは多体の相関が重要になる流体の問題以前に、 2 体の問題にまだまだ未解明の問題が残されていることを教えられました。 それがここで紹介したガタガタ衝突 chattering collision の問題です。 そもそもガタガタ衝突がここまで一般的な現象だと考えていませんでしたし、 特に剛体針同士のガタガタ衝突が数十回以上も持続することは驚きでした。 「先生、衝突は続くんです」という、 普段は物静かな向山さんの弾んだ声が思い出されます。

ちょっと専門的にすぎる話題だったかもしれませんが、 若くして急逝した向山さんを偲ぶよすがとして、 分子衝突に関わる問題の一端を紹介するページを作ってみました。 何かの参考になれば幸甚です。


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