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| 図 1-1. 理想気体 X -ファンデルワールス流体 A 混合物の”分子論的”イメージ。 相互作用しない X 分子 からなる理想気体中で、 A 分子(図中の●)が相互作用しながら運動しています。 |
このおはなしで理想気液混合物として考えるのは、 理想気体とファンデルワールス流体の混合物です。 理想気体成分(以下 X とします)は ファンデルワールス流体成分(以下 A とします)に対して傍観者、 あたかも「空気」のように振舞うものとします。 少し ”分子論的” にいうと、X 分子は A 分子、あるいは X 分子同士と相互作用しないと考えます(図 1-1)。 ですから X 分子は分子コアを持たず、また A 分子の分子コアも、 スルスルとすり抜けてしまいます(”排除体積”にも X 分子は無関係)。 ただし X 分子は器壁とは相互作用があり、容器内に閉じ込められています。 流体の容器は ”特殊素材” でできているわけで、 随分と空想的な設定ですが、 「理想」なので良しとしましょう。
理想気体成分 X はファンデルワールス流体成分 A に対しては傍観者ですが、 流体の容器との相互作用、流体の圧力 \(P\) に関しては、 ファンデルワールス流体成分とともに寄与します。 ですから各成分が独立に存在する時の圧力を「分圧」のように扱うことができ、 混合物の状態方程式は次式のように与えられます:
\begin{equation} P = \frac{n_\mrm{A} RT}{V - b n_\mrm{A}} - \frac{a n_\mrm{A}^2}{V^2} + \frac{n_\mrm{X} RT}{V} \label{eq:vdw_eq0} \end{equation}
ここで \(P\) は圧力、\(T\) は温度(熱力学温度)、\(V\) は体積、\(n\) は物質量、 \(R\) は気体定数で、\(a\), \(b\) はファンデルワールス流体成分 A を特徴づける定数です。 この形は \(PVT\) 関係と呼ばれるように、皆さんおなじみのものかもしれませんが、 このおはなしでは、扱いやすいように示量的な変数である \(V\) と \(n\) を、 示強的な変数である流体の密度(物質量密度)\(\rho = n/V\) を用いて次のように表すことにします:
\begin{equation} P= \frac{\rho_\mrm{A} RT}{1 - b \rho_\mrm{A}} - a \rho_\mrm{A}^2 + \rho_\mrm{X} RT \label{eq:vdw_eq1} \end{equation}
さて理想気体-ファンデルワールス流体混合物の状態方程式 \eqref{eq:vdw_eq1} は、 次式のように整理できます:
\begin{equation} P/(a b^{-2}) = \left[\frac{b \rho_\mrm{A}}{1 - b \rho_\mrm{A}} + b \rho_\mrm{X}\right] RT/(a b^{-1}) - (b \rho_\mrm{A})^2 \label{eq:vdw_eq1a} \end{equation}
ですから純粋なファンデルワールス状態方程式同様、 理想気体-ファンデルワールス流体混合物の状態方程式は、 圧力、密度、温度の単位を適切に取ることで、 物質に依存するパラメーターをあらわに含まない、次式のような形で表すことができます:
\begin{equation} P = \frac{\rho_\mrm{A} T}{1 - \rho_\mrm{A}} - \rho_\mrm{A}^2 + \rho_\mrm{X} T \label{eq:mix_eos} \end{equation}
ここで圧力、密度、温度の単位 \(P_\mrm{U}\)、\(\rho_\mrm{U}\)、\(T_\mrm{U}\) を次のように取りました:
\begin{equation} P_\mrm{U} = a b^{-2}, ~~ \rho_\mrm{U} = b^{-1}, ~~ T_\mrm{U} = a /(b R) \label{eq:vdw_units} \end{equation}
このように、物質固有のパラメーターに依存しない形で相挙動を考えることができるのが、 この理想気体-ファンデルワールス流体混合物の大きな特徴といえるでしょう。 このおはなしでは、これ以降 式 \eqref{eq:vdw_units} のように圧力、密度、温度の単位をとるものとします。
混合系を記述するのに、成分 A、X の各密度ではなく、 成分組成と全密度で記述することも、 よく行われるところです。 この立場からは、状態方程式は次式のように表されます:
\begin{equation} P = \frac{(1 - x) \rho T}{1 - (1 - x) \rho} - (1 - x)^2 \rho^2 + x \rho T \label{eq:mix_eos2} \end{equation}
ここで \(x\) は理想気体成分 X のモル分率、\(\rho\) は全密度です:
\begin{equation} x = \frac{n_\mrm{X}}{n_\mrm{A} + n_\mrm{X}} = \frac{\rho_\mrm{X}}{\rho_\mrm{A} + \rho_\mrm{X}}, ~~~\rho = \rho_\mrm{A} + \rho_\mrm{X} \label{eq:mix_fraction} \end{equation}
相挙動を \((\rho_\mrm{X}, \rho_\mrm{A})\) という変数の組み合わせではなく、 \((\rho, x)\) に取ることで、見えてくる風景がどう変わってくるかも注目したい点です。