2003.12.10.
気体の粘度の実験1988-89

1.実験課題について

たいていの物理化学の教科書で「気体分子運動論」というのが登場します。かってはマクスウェルの速度則から始まって、気体の輸送性質の意外な側面に触れて終わるというスタイルが大多数だったと思いますが、最近は気体の輸送性質について語られることが少なくなってきたように思います。 けれども分子論の最初の成功例であった気体の輸送性質についての知見は大事にして欲しいものの一つです。あるいはそういった感動を持っていないと、誤った分子論的な“物語”に溺れてしまう結果を招きかねないでしょう。

気体の粘度について、ぼくが大事だと思うポイントは次の点です: これらの事実は、気体の粘度に対する簡単な分子論的扱いから導くことができます。

気体中で分子が平均速度vで運動していて、ある距離λ(平均自由行程)進んでは他の分子と衝突しでたらめな方向に運動していくものとします。 この時、粘度に対する次のような式を導くことができます(Maxwell 1860)。

EQ01_01

ここでρは分子の数密度、m は分子の質量を示します。この平均自由行程λは、分子がもし剛体球であるとするなら1/πσ2ρ で評価でき* 粘度は次のようになります。

EQ01_02

こうすると粘度は密度に無関係になることが見えてきます。 また温度を上げ分子の平均速度が大きくなると粘度も大きくなり、また分子間の相互作用が大きい(=断面積πσ2が大きい)ほど粘度が小さくなることもわかります。 この実験ではこうしたことを実際に確かめていただこうというわけです。

この課題では気体の粘性を気体が細管を通じて、フラスコに流入あるいはフラスコから流出するようすを追跡することによって測ります。 実験ではまず、空気についてその粘性の挙動を温度を変えて調べた後、余裕があれば二酸化炭素(さらにはジクロロメタンなど)について粘度を測ります。 なお実験で用いる細管の直径の精度があまり高くないので、もっぱら粘度の相対値を議論することになります。


* 剛体球分子が距離 L だけ進んだ時1回も衝突しないとすると、πσ2L の体積の中に他の分子がなかったということになります。 いわば他の分子の存在を知るために、空間を「掃いている」といえます。 平均自由行程λは、それぞれの分子がλの距離だけ進むと、分子1個あたりに割り当てられた体積(= 1/ρ)を「掃いた」ことになる距離に相当します。

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