2025.12
吉村洋介
化学実験法 II 確率と統計のはなし

2.変数変換と分布関数

ランダム変数 \(y\) がランダム変数 \(x\) の関数として与えられている時、 \(x\) の分布関数 \(f_x(x)\) と \(y\) の分布関数 \(f_y(y)\) の関係を考えよう。 今簡単のため逆関数が存在するとし、\(y = h(x)\)、\(x = h^{-1}(y)\) であるものとする。 この時、\(x\) が \(x\) の近傍 \(\rmd x\) の値をとる確率と \(y\) が \(h(x)\) の近傍 \(\rmd h(x)\) の値をとる確率は等しいので("確率の保存")、次の関係が成立する。

\begin{equation} f_y (y) = \left| \frac{\rmd x}{\rmd y} \right| f_x (x) \label{eq:fconv1} \end{equation}

ここで \(x = h^{-1}(y)\) である。したがって例えば \(y = x/2\) であれば \(f_y(y) = 2 f_x(2y)\) である。 多変数の場合の変数変換もヤコビアンを用いて同様に定式化できるが、ここでは特に2変数の分布関数を1変数に縮約することを考えてみよう。 ランダム変数 \(x\) と \(y\) の分布関数を、\(z = h(x, y)\) と \(y\) の分布関数に変換すると次の関係が成立する(\(x = h^{-1}(z, y)\)という逆関数があるとする)。

\begin{equation} f_{z,y} (z, y) = \left| \frac{\rmd x}{\rmd z} \right| f_{x,y} (x, y) \label{eq:conv2} \end{equation}

したがって \(z\) の分布関数は次式で与えられる。

\begin{equation} f_z (z) = \int_{-\infty}^{\infty} {\left| \frac{\rmd x}{\rmd z} \right| f_{x,y} (x, y) \rmd y} \label{eq:conv3} \end{equation}

特に \(z = x + y\) という変数の加算について考えてみると \(x = h^{-1}(z, y) = z - y\) であるから

\begin{equation} f_z (z) = \int_{-\infty}^{\infty} {f_{x,y} (z-y, y) \rmd y} \label{eq:conv4} \end{equation}

特に \(x\) と \(y\) が統計的に独立であるなら次式が成り立つ。

\begin{equation} f_z (z) = \int_{-\infty}^{\infty} {f_x (z-y) f_y (y) \rmd y} \label{eq:conv5} \end{equation}

この形の積分を畳み込み convolution と呼び、化学現象を扱う上でしばしば登場する。

化学で出会うランダム変数の問題は、ほとんどがこの変数変換の問題とさえ言えるかもしれません。 それだけによく演習などをこなして、 しっかりものにしておいていただけることを期待します。

ちょっと恰好よく変数変換の式を表したい人は、 式 \eqref{eq:fconv1} を次のようにデルタ関数を使って書くのもアリです:

\[ f_y (y) = \int_{-\infty}^{\infty} \delta(h(x) - y) f_x (x) \rmd x \]

ただし実際に使う分には、これまたデルタ関数に(理屈はともかく)十分習熟しておくことが肝要です。

ここでは取り上げていませんが、 変数変換を行って統計的に独立なランダム変数を作ることもよく行われます。 次のような場合を考えてみましょう:

\[ f_{x,y} (x, y) = C f_{v,w} (v, w) = C g(v) h(w) \]

ここで \(g(v)\)、\(h(w)\) は \(x\) と \(y\) の差と和

\[ v(x, y) = x -y, ~~~~w(x, y) = x + y \]

の分布関数であるとします。 この変数変換で 2 次元平面上の地形を探る問題だったのが、 うまく切り口を選ぶとどこをとっても同じ形 (たとえば \(w\) = const の面で切断するとどこでも \(g(v)\) に比例する変化が起きる、いわば金太郎あめ状態)になっているので、 1 次元の問題に還元できるようになるわけです。 ここで係数 \(C\) が問題ですがヤコビアン \(J\) を計算してみると

\[ J^{-1} = \left[ \frac{\partial(x, y)}{\partial(v, w)} \right]^{-1} = \frac{\partial(v, w)}{\partial(x, y)} = \detmat{\partial v/\partial x}{\partial v/\partial y}{\partial w/\partial x}{\partial w/\partial y} =\detmat{1}{-1}{1}{1} = 2 \]

なので

\[ C = |J| = \frac{1}{2} \]

となります (普通は \(J = 1\) となるように \(w(x, y) = (x + y)/2\) と取りますが・・・)。


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