2021.7
吉村洋介

4.おしまいに

初歩の学生実験で行われている容量分析の実験は、 中学・高校でも取り上げられる、 極めて初等的な実験課題です。 その一方でこの実験は、ほぼ同程度のスケールの滴定実験を組み合わせて巧妙に構成することで、 メスフラスコやホールピペット、ビュレットなどの実験器具、 それぞれの精度、精確さを十全に生かして、 1/1000 に摩する精確さを実現するという、 非常に高度な実験でもあります。

実際の学生諸君の実験では、 特に初心の内は滴定値のばらつきが 0.2 mL もあることは珍しくなく、 およそここで考えた精確さ以前のところに問題があります。 これはピペットの先端に空気の泡が入っていたり、 ビーカーの洗いが足りない、 といった基礎的な技量の不足に由来するもので、 注意深く練習すれば克服可能です。 そして技量が身に付き、安定な結果が得られるようになると、 学生諸君は、 また指導する側さえも、 そこで満足してしまっているように見えます。 けれども、そこで立ち止まって欲しくはありません。

安定した結果が得られるようになったら、 さらにその総体を批判的に見なおしてみて欲しいのです。 そうした姿勢は、 精確な測定をめざす他のさまざま現場でも、 またさらには科学的にものごとを探求する上でも、 大切なことであると思っています。


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