| 気体 | 88 年度 | 89 年度 | 文献値 |
|---|---|---|---|
| 空気 室温 | 1 | 1 | 1 |
| 空気 沸騰水 | 1.20 (0.06) | 1.14 (0.04) | 1.18 |
| 二酸化炭素 室温 | 0.88 (0.05) | 0.89 (0.04) | 0.81 |
ただし問題はまだ残されています。
一つは用いる装置によるちがいです。 89 年度に開放型の装置を使うようにしたのは、構造が簡単になり、圧漏れの起きる箇所が減って実験の失敗が減ることを期したからでした。 たしかにその効果はあったようで(2人組にしたという効果も大きかったでしょうが)、データのばらつきも小さくなっています。 けれどもその一方で、沸騰水中の粘度が少し小さめに出ています(88 年度は 12 人、89 年度は 10 組の出したデータで統計的には問題が残りますが、有意と見られます)。 これには沸騰水にコイルを浸して実験する際に、フラスコが温まる効果が影響している可能性がありますが詳細は不明です。
また二酸化炭素の結果は、閉鎖型、開放型はよく一致した結果を与えるのですが、4章で示した結果同様、文献値より1割ばかり大きい値を与えています。 二酸化炭素のボンベからしばらく炭酸ガスを流したくらいでは、気体の置換が十分行われないためだと思われます。 どちらの装置でもこの気体置換が問題なわけですが、気体の置換をより完全にかつ効率的に行う方法については、成案を得ないままに終わりました。
もう一つは単純に3章で考えた解析どおりに、圧力の変化速度が使ったチューブの内径の4乗に比例しなかったことです。 使ったチューブがカタログ通り内径が 0.23 mm と 0.30 mm であるなら、先に示した圧力変化のプロットの勾配は、0.30/0.23 の4乗、2.9 倍ちがうことが期待されます。 しかし実際には約5割の増加でした。 図5-1 に示すには学生諸君の得た、室温の空気に対するプロットの勾配、装置定数 b
(3-7)
を粘度 η で割った b/η の頻度分布です。 細いチューブ、太いチューブがあることに対応して2こぶラクダのような分布になっています。 内径が 0.23 mm と 0.30 mm、2種類のコイルを用意していたのですが、なぜか 88 年度は細い方のチューブを使う学生さんが多く、89 年度は太い方のチューブを使う学生さんが多かったようです。 そこまではいいのですが、先にも述べたようにピークの位置は3倍もちがってはいません。 予備実験は 0.23 mm のチューブで行っていた上に、88 年度に 0.30 mm のコイルを使う人が少なかったため、最初の年にはこの問題には特に注意しませんでした。 89 年度に何組か内径 0.30 mm のチューブを使用したことから事態が発覚しました。 そもそものチューブが違っていた可能性(内径 0.30 mm ではなく 0.26 mm だとすると 1.63 倍で、それなりにつじつまは合う)、チューブの先端の加工の問題、チューブに折れ目が付いていたなどの機械的な問題、さらにはそもそもの層流条件(レイノルズ数が十分小さい)が破れた可能性など、いろいろ考えられるのですが、この次の年からこの課題が消えることもあって、それ以上追求しませんでした。
最後にこの実験に対する学生諸氏の評価ですが、残念ながら評判は芳しくありませんでした。 装置の圧漏れから思いついて、いろいろ頭と手は使ったが、お安く仕立て上げられた課題だからだったからでしょうか。 学生諸君は、何かもっと「近代的」な機器、値の張る機器を使って測定することに期待を寄せているのかもしれません。 ぼくの愛する化学は、そうしたところにはないですが・・・ でもたぶん、そういう気持ちは学生さんには通じないんでしょうね。