2004.5.7.
「合金の分析」ノート  吉村洋介

90年の改訂とその方向性

1990年の合金の分析の課題の改訂は、大きく次の3つの原則に従って行いました:

1990年にぼくたちが分析化学実験(「化学実験A1」と称されていました。学生実験は当時週4日、月曜から木曜の午後通して実施されていました)の担当になった時、課題の内容を見て改めて認識したのは、重量分析の比重の高さでした。 モール塩と硫酸銅を題材に、それぞれ酸化鉄と酸化銅として定量する重量分析の練習実験があるのは無論のこと、系統分析である合金の分析もすべて重量分析なのです。 これでは余りにも学生の負担が大きすぎるでしょう。

そこで路線転換を図るべく、JIS(日本工業規格)の金属分析関係の規格を調べてみて驚きました。 JISには重量分析がほとんど生き残っていないのです。 教育的に重量分析が重要だというのはわかります。 しかしだからといって“現場”ですでに見放された忍耐を強いる手法を、1ヶ月学生に実習させる意味はないと判断しました。 そこで重量分析は、モール塩と硫酸銅をそれぞれ酸化鉄と酸化銅として定量する練習実験に止め、合金の分析から重量分析の要素をカットしました。

もう一つは「系統分析」的な手法へのこだわりを捨ててよいのではないかということでした。 通常の系統分析的な手法では、段階ごとに沈殿の形で成分を一つずつ落としていくことになります。 その際、分離のための試薬には、取り扱いの厄介な硫化水素などを多用します。 また長い経路のどこかの段階で操作を失敗すると、すべてやり直しになってしまいます。 そうした目でJISを眺めてみると、系統分析的な手法が影を潜めているようでした(たとえば「白銅及び洋白分析法」JIS H 1231といったものから「銅及び銅合金中のニッケル定量方法」JIS H 1056といった形への変更)。 そこで系統分析の可能性を残しはするものの、系統分析にこだわらない方針をとることにしたのです。

最後に分析操作の設計に当たっては、JISにできるだけ添った形にしようと考えました。 JISはいわば「誰でもできる分析法」を提示してくれていると言ってもよいでしょう。 だから「標準」なのでしょうし、学生実験ではその「標準」をこなすことが必要だろうと考えたのです。 またぼくたちが文献に当たったりして自分の考えで割り出した手法には、それ自体は実習として興味深く、考えさせる要素があっても、たいていの場合、廃液処理や器具の選定などでつまずく部分があります。 多くの人に試され済みのJISの手法は安心して従うことができます。 JISに記載された手法に則って、実験のスケールを学生実験の身の丈にあったものにし、毒物などは使わない方向で分析操作は設計したつもりです。 たとえばJISではほとんど 20 mL のスケールを採用していますが、学生実験では廃液量、実験の精度など考えると採用する意味がないと判断し、10 mL のスケールで実施しています。

こうして設計した分析法は主要成分である銅・ニッケル・亜鉛についてそれぞれ次のような手法によるものです:

なお洋白には、鉛、鉄などが含まれている場合があり、JISにもそれぞれの分析法が規定されています。 しかし用いる試料中の含有量が低く、分離・定量に関わる操作は行なっていません。


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