硫酸鉄(II)の水への溶解度は古くからよく調べられている。硫酸鉄(II)の結晶と水溶液の共存状態で温度を上げていくと、硫酸鉄(II)の結晶は7水塩から4水塩、1水塩となり、溶解度が減少するようになる。
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図1.水への硫酸鉄の溶解挙動 [Gmelin P. 400] |
上は硫酸鉄(II)と水の系についてだが、図2に見るように硫酸鉄(II)の溶解度に対する硫酸濃度の影響は非常に大きい。
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図2.硫酸への硫酸鉄(II)の溶解挙動[Mellor
P. 272]。 一部不可解な部分があり、原報 [Schreinemaker ] に当たる必要がある。 |
今回の合成条件(鉄8 gを、水80 mLと硫酸16 mLの溶液に溶かす)では、理想的に反応が進んだ場合、最終的に硫酸鉄18%、硫酸15%の組成の溶液となる。上図の溶解挙動によれば、これは75℃でほぼ飽和の組成になっている。これをさらに濃縮したとすると、FeSO4・2H2Oが析出してくることになる。ただし75℃で硫酸濃度が低くとも二水塩だというのは、図1の硫酸鉄(II)-水の溶解挙動とは矛盾し、検討が必要。
なお今回の学生実験で、モール塩の再結晶を合成に用いた比較的濃い硫酸(30%)で行った学生がおり、その際、白く濁った溶液となって、硫酸を加えても溶解しないという事例があった。これは硫酸濃度が高いと、モール塩よりも、硫酸鉄の一(二)水塩の溶解度の方が低いためと考えられる。硫酸ではなく水を加えることで、事態を回避することができたが、注意を喚起する記述が必要かもしれない。
[Mellor] J. W. Mellor, "Comprehensive Treatise on Inorganic and Theoretical Chemistry", Vol. 14, Longmans, 1935.
[Gmelin] Gmelins Handbuch der anorganischen Chemie, Eisen [B] 8 auflage, Verlag Chemie, 1932.
[Schreinemaker] F. A. Schreinemaker, Z. Phys. Chem. 71, 109 (1910).