5年程前から、モール塩の容量分析結果が系統的に低く出る問題が生じていた。 この原因について、モール塩溶液の空気酸化、モール塩の乾燥法(日程の関係で乾燥が不十分なまま、容量分析の試料として使用している)、使用しているイオン交換水の汚染(過マンガン酸カリウムの標定の際には加温するので、有機物による汚染があれば影響が出る)など、さまざまな要因を検討してきたが、いずれも実際に観察されている分析結果の差を説明できるものではなかった。 今年、2001年度の学生実験の結果を検討した結果、この原因の所在がほぼ明確になった。「ホッチキスの針を使うと純度が低下する」のである。
ここでは分析結果は純度(分析の結果、モール塩中に含まれる鉄の物質量と計算値の比)で表示することにする。
レポートを提出したのは54人中52人。あまりにはずれた値(%にして7ポイント以上)をのぞいて統計に使用したのは、重量分析については89例、容量分析については45例。 重量・容量分析による純度はそれぞれ、平均98.8%(標準偏差1.7)、平均97.9%(標準偏差2.0)だった。 この結果を、過去、吉村が担当した際の学生の実験レポートの控えとともに示すと、下の表のようになる。
年度 | 重量分析 | 容量分析 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
平均 % | 標準偏差 | 件数 | 平均 % | 標準偏差 | 件数 | |
1996 | 99.5 | 2.0 | 36 | 99.0 | 1.3 | 18 |
1997 | 99.4 | 1.4 | 73 | 98.7 | 1.4 | 34 |
1999 | 99.5 | 1.4 | 88 | 98.2 | 1.7 | 45 |
2001 | 98.8 | 1.7 | 89 | 97.9 | 2.0 | 45 |
重量分析の方が、純度が高めに出る傾向があり、97年以降での差は統計的にも有意である(96年はσ程度。99年では4σ以上の差がある)。 2001年度の場合について、これを頻度で表すと、図1のようになる:
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図1.2001年度学生実験でのモール塩の重量・容量分析結果の頻度分布。 黒は重量分析、赤は容量分析 |
図1から容量分析結果に、2つのピークがあるように思われた。そこでモール塩の原料ごとに統計を取ってみた。 今年の場合、モール塩の合成原料は、スチールウールが22人、ホッチキスの針が同じく22人、スチール缶2人、その他・不明6人で、スチールウール(SW)、ホッチキスの針(SN)が、他を圧倒している。
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図2.モール塩の重量分析結果の頻度分布。 赤はスチールウール、黒はホッチキスの針が原料。 |
図3.モール塩の容量分析結果の頻度分布。 赤はスチールウール、黒はホッチキスの針が原料。 |
スチールウールの方が、高い純度を与えることがわかる。またその差は、容量分析の方が大きい。得られたモール塩の分析値について、原料別に統計をとると次のようになる。
重量分析:SW平均99.6%、標準偏差1.2 (40 件)、SN平均97.9%、標準偏差1.7 (34 件)
容量分析:SW平均98.9%、標準偏差1.5 (19 件)、SN平均96.5%、標準偏差1.7 (19 件)
図からも明らかだが、重量分析、容量分析いずれでも、スチールウールから作ったモール塩の方が純度の平均値は5σぐらい高く、統計的に有意な差が出ている。