2003.5.3.

「物理化学の進歩」第11巻(1938)より

この号から発行元が「日本物理化学研究会」に移行し、原報本文もすべて英(独)文へ転換、原報と日本の物理化学関係の論文の欧文抄録を掲載した海外向けの冊子体を別途発行することになります(海外版の購読料は年1ドルで京都の丸善が代理店)。 ここに紹介するのは、これに際しての、意気高い堀場先生の刊行の言葉です(読みやすいように、新字新かなにしてあります)。 なお日本物理化学研究会設立に際しては、藤井榮三郎さんから多額の寄金(3万円)があった訳ですが、堀場先生自身もそれに次ぐ醵金(1万4千円)をしておられます。


第11巻刊行に際して

顧れば大正15年7月本誌第1巻第1輯を刊行してから早や十年余の歳月が流れました。その間吾人は編集者として可なり困難なる荊棘の途を辿りましたが、幸にも漸次発達を遂げここに十巻のバックナンバーを並べて見ると感慨のいとも深いものがあります。

今や本誌第11年の春を迎えて更に新しい生命が吹き込まれたことを吾人の限りなき喜びと致します。それは巻頭に小照と小伝とを載せさせて頂いた東京藤井榮三郎様の美しい御寄附が基となり櫻井錠二先生、大幸勇吉先生の御指導、吾が国物理化学者の大多数の御参加、広く篤志家の御賛助で昨秋日本物理化学研究会なるものが新しく生れました。吾が国物理化学研究の洋々たる将来の発展が期待されます。本誌の刊行もその日本物理化学研究会にゆだねらるる事となり将来は同会の機関雑誌として充分の機能を発揮すべき使命を持つ事となりました。

従つて新装の本誌は原報も全部欧文に改められました。今の処内地版は従来の通り年6回刊行とし外国版は年3回刊行、而して本誌にのせられない吾が国物理化学関係の研究全部欧文で抄録して日本物理化学研究の世界的紹介の使命を全うするはずであります。本誌の使命が世界的になりましたから読者諸君もその御考えで今後の御後援を御願い致します。

過去十年を回顧し今後十年後の本誌の将来を思う時,吾人の心は躍る。十年後の本誌は必ずや世界第一流の権威ある物理化学雑誌として発展している事を予想し、否確信して本誌の将来を祝福したいと思います。

堀場信吉

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