これは今思ってもゾツとする話であるが、もう5、6年も前の事である。 内径 8 - 9 cmばかりのデュワー瓶を山下君につくらせたが、こんなに大きくなると山下先生にも少々無理だったと見えて上縁にまだ大火傷の跡の様に引きつれた凹凸が大部残っていた。 当然こんな所は熱変化に対して最も弱い所であるから始めは充分注意深く扱っていたが、液体空気を一杯入れても案外どうもならないので、すつかり油断してしまった。 フェーダーマノメーターをこのデュワー瓶に入れ之に淡々と九分目位まで液体空気を注いで行ったがまだ少し中のフェーダーの部分が見えるのでも少し入れてやれと思って更に液体空気を追加して行った。 もう二分位で一杯という時分、突然パアーッといった鈍い音がしたと思ったら万事は休しておった。 実験台の上には一面に二寸角位の銀メッキをしたガラスが飛散していた。 勿論フェーダーはあえなき最期をとげるし、パイレックスの太い毛管部も三ケ所計りちぎれていた。 ガラスの破片が大部遠いところまで飛んでいたところを見ると相当な勢いで飛出したものと見える。 しかも一瞬間前にはどの位這入ったかと中をのぞいていたのであるから恐ろしい話である。
これは勿論例の弱点からはねて、急に液体空気が外気にふれて気化した丈の事であるが量が多かったのであんなに強く破裂したのであらう。 とにかく、相の悪いデューワ瓶は曲者です。