2003.8.10. last revised 2022.3.3.
読みやすいように、新字新かなにし、漢字表記など改めています。

§33 パラ・オルソ水素混合物の分析

BKGFIG36

パラ・オルソ水素混合物の分析にはp-H2とo-H2とが特定温度で相当の比熱の差がありその結果として熱伝導度に差のある事を利用する。 この差を測定してその濃度比を決定する。(第36図参照)

ガスの熱伝導度の測定には cooling thermometer method (Pogg. Ann. 156, 177 (1875))、hot thin wire method* 、 plate method (Hercus and Sutherland, Proc. Roy. Soc. [A] 145, 599(1934))の外に最近は hot thick wire method (Kannuluik and Martin, Proc. Roy. Soc. [A] 496 (1934)) が新しく考えられた。 皆長短所のある方法であるが、パラ水素の分析には hot thin wire method を用いる。 測定時における被検水素の圧によって操作が異なり 40~20 mmHg、0.5 mmHg、及び 0.05 mmHg の三種がある。 高圧の方は一気圧くらいまで不正確ながら分析することができる。 三種の中 40~20 mm のものが装置の組立が容易であるから他の事情が許せばこの方法によるが良い。

* 極めて多数の研究あり。Stähler, Handbuch der Arbeitsmethoden III, 596 (1918); Traüz und Zündel, Ann. Phys. 345-75 (1933); Weber, ibid. 82, 479(1927); Gregory and Archer, Proc. Roy. Soc. [A] 145, 599 (1926)。

以下実験方法について述べよう。

まず 40~20 mmHg の分析法を説こう。

A) 熱伝導度容器

BKGFIG37

第37図(a)、(b)、(c)、(d)等が考案されている。 cell は白金線を加熱したる時熱の convection を無くするためできるだけ細く(直径 1 cm前後)、かつ肉の薄いガラスを用いる。 ガラスの代りに真鍮管を用いるとより良い結果が得られる(Trenner、J. Chem. Phys. 5, 382 (1937))。 かつ何時も立てて使い横にしてはならない。 加熱線は pirani-type のgauge(Ellett and Zabel, Phys. Rev. 37, 1102 (1931); H. G. Tanner, J. Phys. Chem. 34, 1113 (1930); Pirani, Verh. Deutsch. Phys. Ges. (1906))に Ni、Pt、W または glass capillary に Hg を入れたものを用いるが、パラ水素の分析には Pt が一番良い。 Ni や W になるとパラ水素が転移をなす恐れがある。 加熱白金線は直径 1/100 mm ~ 2.5/100 mm位のものを用いる。 長さ 20 cm くらいを第37図のように固定しかつ Spring によって張力をかけておかないといけない。 第37図(b)の A 部を摺合せにしておくと白金線が切れた時に張りかえ得る便があるがグリーズの蒸気のため低圧測定の時は摺合せにすることができない。 被検ガスの導入口 C は下方につけて cell にガスが入る前に冷却して bath の温度を取っているようにしなければならぬ。 A から上の方少くとも 20 cm はガラス管中に入れ保護しないと cell を液体空気で冷却した時に湿気が導線に附着して抵抗値を変化する。 (共立社:実験化学講座、低温実験法、41ページ(昭和 9 年))


B) 電気装置

BKGFIG38

分析は白金線を一定の電流で加熱しつつ p-H2 濃度の変化による白金線の温度したがって抵抗の変化を測定する方法、白金線の抵抗を常に一定にするに要する電圧の変化を測定する方法と二種ある。 前者の場合は普通の Wheatstone bridge を抵抗測定に set すればよい(第38図)。

この場合(range = 0.5 ~ 1 W)はなはだ抵抗の小なる変化を測定するのであるから導線と導線との連結、各抵抗箱の抵抗値が精密にできているかを確めて使用しないと重大なる誤差を生ずる。 抵抗は白金線により異なるが1/1000 W まで測定し得る必要がある。 そうすれば p-H2 の濃度で 0.1% まで解ることになる。 加熱用の電源電池は容量の大なる(150 A.H.)蓄電池を用いる必要がある。


BKGFIG39

第二の方法はEucken の始めたるものであるがその後多くの人々がこれを用いている。 第39図には簡単にこの原理を示す。

図において a が分析用白金線で b は同一白金線で a より短いのみで同一 Cell に入れる(b は不必要のことが多い)。 まず加熱電源を入 れ測定温度で図の回路が Wheatstone の関係となり G に電流を通ぜざるように各抵抗を調節する。 しかる後 p-H2 の濃度が変化すれば a の抵抗が変化し抵抗の平衡が破れるから V を変化して元の平衡にする。 この時の標準抵抗(W1、W2)の両端の電圧の変化を読み p-H2 の濃度を決定する。 これもはなはだだ精密なポテンシオメーターを必要とする。 なお最近この方法を改良した装置が発表されている(Trenner, J. Chem. Phys. 5, 382, 751(1937))。


C) 測定法

第38図で D が Conductivity cell、Aから被検水素を D に目的の圧に入れる。 その圧は M の水銀圧力計で読む(Capillary depression の注意 A. W. Porter, Trans. Faraday Soc. 29, 702 (1933)); Cawood and Patterson, ibid. 514 (1933))。 1/10 mm まで精密に調節できるように A の活栓は Wohl 式(緒方、近藤、化学実験操作法 137ページ(昭和7年))にする。1/10 mm まで精密に読めば p-H2 の % は 0.1 % まで正確となる。 かくて白金線を約 -100 °C(cell 自身白金抵抗寒暖計となっているから抵抗値からすぐわかる。 D は液体空気中に深く埋めること)に加熱する。 ここでの p-H2 濃度が変化すると一定電圧を加えているにかかわらず p-H2 の方が熱電導度が良いから白金線の温度が変わり、これが抵抗の変化となる。 これを精密抵抗で読む。 p-H2の濃度(%)と抵抗値の間には直線関係がある3) 。cell は使用前良く真空に引きかつ水素で洗滌しておかねばならぬ。 白金線は誤って焼き過ぎると抵抗が変化する。上述に従って直線関係の検度表が得られるが、一測定毎に n-H2 で抵抗値の変化を補正しておく必要がある。

0.05 mmHg 圧における測定:-

この方法は重水素の濃度決定(A. and L. Farkas, Proc. Roy. Soc. [A] 144, 467 (1934); P. Harteck, Z. Elek. Chem. 44, 3 (1938)) にも用いられ重要な方法である。その組立が少々困難のため二三の研究論文も出ている(K. Wirtz, Z. phys. Chem. [B] 32, 334 (1936); Eley and Tück, Trans. Faraday Soc. 32, 1425 (1936))。また重水素の決定にはこの方法の実験的困難のためその使用の可能性を疑っている人もある(Newell, Purcell, Gregorg and Ellingham, Nature, 137, 69 (1936); A. Farkas and L. Rikeal, ibid. 315)。 ここではこの方法の原理は原報(A. Farkas, Z. Phys. Chem. [B] 22, 344 (1933); A. Farkas and H. Rowley, ibid 335)に譲り、簡単なる実験操作法と装置組立上重要なる注意を述べるに止める。

BKGFIG40

第40図はこの装置である。G は Conductivity cell、u1 はグリーズやHg-蒸気除去の液体空気管、M は圧力調節装置、 P は水銀ポンプである。T は大きさのわかった毛細管で、T 中の被検ガスを B から直接 cell に流すか、ガス量小なる時は P によって cell へ pump して入れる。 目的の圧 0.05 mmHg より少し低い圧にしておいて M の水銀を上げて精密に圧を調節する。

まず液体空気で G を冷却しこの cell に n-H2 を 0.05 mm に入れる。 この圧は Mc Leod gaugeで読む。 白金線に電流 i1 を通した時線は温度 T1 になったとし、i2 の時 T2 になったとする。 次に n-H2 を被検 p-H2 で入れかえ加熱電流が i1 の際再び温度が T1 になるように cell 内の圧を M で精密に調節する。 しかる後電流を i2 になしたる時は温度はもはや T2 でなく、被検 p-H2 中の p-H2 含量によりそれぞれ異なる温度 T3 を取る。 p-H2 が多い程 T3 は高温となるが、(T3 - T2) が p-H2 濃度に比例する。 T1、T2、T3 は白金線の抵抗を測定して知ることは前法と同様にして T1 = 180 °K、T2 = 250 °K を選ぶ。 cell 身が白金抵抗寒暖計をなしているから bath の温度や、180 °K、250 °K (-23 °C)等は抵抗からすぐ知り得る。

加熱白金線の太さは 0.01 mm、長さは 5~17 cm くらいを用いる。 特別の Wollastone-draht を用いる。 これでも抵抗値が変化しやすいので Farkas 及び Sachsse は石英を被せた白金線 (Taylor process wire Baker & Co., Newark, N. J., U. S. A.) を用いてはなはだよい結果を得たといっている。 cell は使用前熱湯中に入れかつ白金線を 400~500 °Cに加熱しながら数時間真空に引く。 使用中この cell が短時間温まると検度が完全に変化するから cell は 2 L 位の Dewar 瓶中に深く埋める。 かかる低圧では accomodation effect が大きいが accomodation coefficient は白金線の表面状態にも関係するから 02 の[や]微量グリーズの蒸気等は全く避けねばならぬ。 cell の bath を取りかえればもちろん検度は異なる。 また白金線に水素が吸着し抵抗を変する adsorption effect があり、かつ T2 が室温近くにも加熱するから、p-H2 が転移を起す恐れがあるから白金線を適当に処理しなければならない。 処理法はEley and Tuck の論文にあり(Trans. Faraday Soc. 32, 1425 (1936))。 その他 40~20 mm における分析の時の注意を必要とする。

圧力調節のM (Töpler pump) はFarkasの原報では微細調節用活栓を使用しているがこの M の方が二三有利な所がある(ibid.)。 しかし M は 150 cc くらいの容積をもつから分析のため、より多くのガスを要する不利がある。 測定中外気温により M の圧力が変化してはならないから点線で示したる如くアスベスト板で保護する。 一抵抗測定中 1% 圧力を一定に保てば 1% の精密度で p-H2 濃度を決定し得る。 Farkasの方法ならば一測定に最低 2~3 mm3 (N.T.P.) のガスを要するが上述の Töpler pump を含むEbey 及び Tuck の方法では 0.05 cc (N.T.P.)を必要とする。

なお重水素の分析について改良された方法が発表された。 参考までに文献を記す。(N. R. Trenner, J. Chem. Phys. 5, 382, 751(1937)); R. Burstein、Acta Phys. Chim U. R. S. S. 7、815 (1937))


パラ・オルソ転移に関する文献


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