現今純粋に得られるのはp-H2のみでo-H2は75 %以上純粋にすることはできない。
普通のH2は常温で25 %のp-H2と75 %のo-H2とが平衡状態にある。 室温から約-100 °C まで室温と同じ状態を保つが、更に低温になると段々に平衡はp-H2 の方に移動し、 -183 °Cで 45 % p-H2となり、-190 °C では 49 %、-253 °C では 99.7 % p-H2 となってほとんど純粋となる1) (第32図)。
しかし単に水素を上記の温度に冷却したるのみにでは室温の平衡を持続してp-H2 を濃厚になしえない。 (Bonhoeffer und Harteck, Z. physk. Chem. 〔B〕4、113 (1929))(Wigner の計算では Hallbwertszeit 半減期 = 300 年)。 そこで触媒を用いる。 実用的の触媒には活性炭及びNi-Kieselgel(シリカゲル)(Taylor and Sherman, Trans. Faraday Soc. 249 (1932))がある。 活性炭はガス吸収用粒状(米粒位)の物が便利であるが種類が多く(origin を異にす。荒木:活性炭素、142 頁(昭和7年))、それぞれ p-H2 転移能を異にする。 p-H2 製造にはガス吸収の活性度高き物を必ずしも必要とせず、活性度低きものがかえって p-H2 転移の触媒能の高きものが多い。 第33図には各種木炭とそのp-H2 転移能を示したが2)、骨炭が最も活性なれども、まず市販の物で充分で使用前一度試験しておけばよい。
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まず電解水素は conc. H2SO4 と solid KOH を通じこれを 400 °~800 °C に加熱した Pt-asbestos を通して注意深く O2 を取り P2O5 (液体空気トラップがなお良い)で乾燥し次に触媒室に入れる。 第34図のAは触媒室で約100 cc位が適当で活性炭を充たす。 A はパイレックス・ガラスで作るとよい。 活性炭はそのままでは活性度が弱いから A を450 °~1000 °C(温度高き時は A を石英で作る)に加熱して 50~100 時間高度真空に引く。 活性炭から完全にガスを脱着せしめることはできないが(C. G. Lawson, Trans. Faraday Soc. 32, 473 (1936))、 一定の所で p-H2 転移能はそれ以上高くならなくなる所がある2) 。 脱着の最初は多量の水分が出て真空ポンプの前の P2O5 を取りかえる必要がおこる。 脱着中活性炭の微粉末が逸散せざる様に C と D に glass wool をつめる。 B 管中に微粉末を入れては駄目であるから、脱着は F を閉じ何時も E から行う。 脱着が終ると其のまま冷却して氷で A を冷却しつつ前記の精製した水素を吸収せしめる (Maxted and Hassid, Trans. Faraday Soc., 253 (1932))。 次に氷を除却し目的によって液体空気あるいは液体水素で A を冷却するが A を上記寒剤中にできるだけ深く埋めることである。 後さらに水素を吸収せしめる。1 気圧近くになりたる後しばらく放置し再び A 内を 0.1 mm まで水素を脱着してまた水素を吸着せしめこれを2~3回繰り返して良く活性炭を水素で洗浄する (Ubbelohde, Trans. Faraday Soc., 294 (1932))。 後水素を再び1気圧に吸着せしめて約10~20 分放置すれば完全に活性炭の温度における平衡 p-H2となる。 F から取り出す前 1 分間 B 管中平衡に達していない水素を F から除去したる後平衡 p-H2を取り出す。
また ECDBF を通し動的にも p-H2 を製しえる。充分活性なる触媒を用いれば 300 cc/s の速度で A を通過せしめ p-H2 を製しえる。
活性炭は脱着後一夜放置するとグリーズの蒸気を吸収して活性度を減ずること (Barrer and Rideal, Proc. Roy. Soc., [A] 149, 231 (1935))、および20 °C以上の温度で水素に(N2はさらに強い毒作用あり)、 酸素には-80 °C以上で接触すると活性度を減ずる事に注意しなければならぬ (Emmett and Harkness, J. Am. Chem. Soc., 1624(1935); Burstein and Kashtanov, Trans. Faraday Soc. 823(1936))。 電解水素は普通 0.5 %以下の不純物を有し、0.2 %以下のN2と他はO2である(水分をも含有する。)
上述の精製法ではN2は除かれてないが A を通過する時除かれる。 F から出た p-H2 を約200 °Cに加熱した Pt-asbestos を通し生成した n-H2 は最も純粋となる。 それで Clusius and Hiller(Z. phys. Chem., 4, 158(1929)は水素の精製のための活性炭のトラップを A の前に別に一つ用意した。 触媒室は時には第35図の如き簡単なものも用いられる。 触媒は液体水素で冷却すれば 99.7 %の p-H2 を得る。 液体空気ならば 42~48 % の p-H2 を得ることができるが液体空気を盛に蒸発せしめるとその温度が低下し-215 °C くらいになるから 65 %くらいの p-H2 を得ることができる。 要するに寒剤の温度を熱電対で測定すればその温度でえられる平衡 の p-H2 濃度は次の式(Proc. Roy. Soc., 115, 483 (1927); Dennison)で 計算することができる。
x = h2/(J 8π2kT); J: H2の慣性能率(= 4.67×10-41 g cm2)
以上は p-H2 の製造であるが、o-D2 も同様にして作りうる。 D2 の時は平衡関係が異なり、室温では o-D2が 67 % で p-D2 が 33 % で、 低温になるにつれ o-D2 が濃厚となり液体水素では約98 % o-D2 となる。 これを製する触媒は同じく活性炭を用う(A. and L. Farkas, Proc. Roy. Soc., [A]144, 481(1934))。
上述の如くして製した p-H2 は、はなはだ安定で重クローム硫酸で洗浄して良く脱ガスしたガラス器中では2~3週間、時には1ケ月も何ら変化せず保持しえる。 ガラス細工中誤って金属粉を入れたり、煤煙の炭素粒、脂肪等で汚点をつけると速やかに転移して n-H2となる。 また O2 の微量の混入を最も好まない。 したがって p-H2 を通すガラス管やガラス器は良く脱ガスして前もって精製水素で内壁を洗浄しておかねばならない。 しかし水銀ポンプを急に通過せしめれば p-H2 濃度は変化しない。 ゴム管グリーズ活栓を通しても安定である。ただし水分の存在はパラ転移を起す。3)