1)中温恒温槽について
実験室で用いられる恒温槽にも種々のものがある。 用途により空気恒温槽または水恒温槽を選ぶべきである。 加熱にガスを用いる場合と電気を用いる場合とに分れる。 以下では主としてカロリメーター用として通常と思われるガス加熱による水恒温槽に関して注意をすべき点を述べる。 電気加熱よりよい点は簡単なる事と調節が細かく従って鋭敏である事である。 詳細は参考書を見られたい。
ガス加熱水恒温槽は第15図のごとく撹拌器、ガス自動調節装置及び加熱装置よりなる。 非常に鋭敏であってBeckmannに感じない程度の恒温が得られる。
撹拌器:- 金属棒に金属羽と滑車を附けたもので結構である金属として鉄を用いる時は必ず塗料を塗って置かぬと暫時にして水アカを生じ気持が悪い。 小モーターによりできるだけ軽く滑かに回転する様に据えつける。 撹拌は相当重要でできるだけ充分にしないと場所により温度を異にし恒温槽の意味がなくなる。 それには撹拌器を大にする事と回転を少し速いと思う程回す事である。
自動調節装置:- Toluene の量はなるべく多く、しかも表面積が大であるようにする。 ガスにより水銀面の汚れを少くするために、ガスを一度酢酸鉛の管を通すとよい。 水銀面の汚れは大した影響が無いからゴム布で覆う式より capillary 式の方が良いと思う。 Capillaryの部分は第16図における(c)が一番良いと思う。 ((a)はcapillaryの作用がない。(b)では水銀が切れ易い。) コック及びcapillary水銀面まで水中に浸す事。 そうしないと室温により影響される。 第17図におけるコックを開き capllary 部の水銀面の高さを適当にして目的の温度にする。 細かな調節はガラス管 A の上下による方が便利である。 (この際上述の(c)型にする方が都合がよい。) かかる細かな調節法は第18図の様にすればよい。
|
|
ガス加熱装置:- ミクロバーナーを用ひればよい。注意すべきはガスは年中点火しているので あるから火災の起らない様。(このため机をこがし火事になりかけた事があるといふ。注意!!)
寒暖計:- 先生の部屋にある標準寒暖計により callibrate しておく必要がある。
その他:- 水面を一定にするため絶えず少量の水を入れ他方より第十九図の如きガラス管により出せばよい。 50 °C 以上にする時は流動パラフィンを水面に浮かべて蒸発を防ぐ。
2)溶液反応速度熱解析法(所謂簡単なカロリメーター)
堀場先生御創案にして本研究室に独特な反応速度の熱解析法は、従来主として溶液反応に用いられた滴定法等よりも著しく簡単で、 しかも反応速度のほぼ連続的測定が可能であり、特に反応初期の追求に有力なものであり、溶液反応の速度測定には優秀な新武器というべきである。
熱解析法の原理は反応による反応系の温度変化(dT/dt)に反応器(カロリメーター)に特有な冷却速度(-dT'/dt)を加えたものが、反応により発生する熱量(Q dx/dt)を反応系の熱容量(W)で割ったものである。 即ち
dT/dt - dT'/dt = (Q/W) dx/dt
而してその冷却速度(-dT'/dt)は実験的に Newton law に従い、即ち反応系と外界の温度差(ΔT)に比例する。 なおこれ以外の原因、例えぼ撹拌熱等に対する補正項 θ(τ) を入れ
- dT'/dt = K ΔT - θ = K(ΔT - τ)
ここに冷却恒数(K)及び
以下注意すべき点につき述べる。
恒温槽:-
実験中はベックマン寒暖計に感じない程度の恒温なる事を要す。
即ち±2/1000 °C 以下(中温恒温槽の項参照)
Dewar瓶:-
反応液の量が100~150 cc (50~200 cc でもよい)が適当と思われるから、それに応じた大きさにすればよい。
真空度は高い程よい。(後述の真空度と K の関係参照)
温度計:-
普通のベックマン寒暖計(ルーペにより1/1000 °Cまで読む)でよい。熱容量を小にし且つ遅れを無くする意味で熱電対を用いる方がよい。
低抵抗(11.5 Ω)の volt sensible(1.17×10-7 volt)の理研ガルバノメーターを用い、Cu-Constantan(dia~1 mm)-対にて測定して見たるに約±5/1000 °Cまで測れた。
回転は確実(すべらない)にして、しかも取付けの容易な第21図(b)の如き方法がよい。
回転数は均一系反応では毎分100~300 回転でよい。
かつ回転致により K、W又は均一系の速度恒数は余り影響されぬから強いて調節器を用いる必要はないと思う。
不均一系反応では回転を速く、かつ一定にせねばならぬ。
電気的加熱器:-
Ni又はPtの線で太さ 0.2~0.3 mm 長さ 10~20 cm (抵抗0.5 Ω位)が適当である。その抵抗はWheatstone橋法により一定温度にて正確に(少くとも三位まで)測定しておく必要がある。
(Wの値に大に影響する。)温度による抵抗の変化は次の如くである。
`>
Pt線の抵抗の温度係数(0-100 °C):3.84×10-3
〔Randolt tableの平均値〕
文献
1)堀場信吉、佐藤一雄;簡単なるガラス製カロリメーターの性能について、物理化学の進歩、6、(原)、6~46(1932)。
2)堀場信吉、馬場日出男;簡単なるガラス製カロリメーターによる化学反応の熱解析(1)、物理化学の進歩、6、(原)47~61(1932)。
3)外山修;人造絹糸の膨潤及び溶解の熱化学的研究、物理化学の進歩、6、(原)177~193(1932)。
4)神前武和;熱解析による酵素作用の研究(I)、サッカラーゼの作用、物理化学の進歩、9、(原)、64~94(1935)。
5)水渡英二;熱解析によるコロイド触媒作用の研究(I)、白金コロイドによる過酸化水素の分解、
物理化学の遊歩、10、(原)232-270(1936)。
その他卒業論文
例えば
temp. 20 30 40 50 60 °C
R 0.474 0.493 0.512 0.531 0.550
反応液の混合:- 二液の混合により反応を始める場合には混合を出来るだけ速かにする事。
Dewar瓶の蓋:- ゴム栓(又はコルク栓)を用いる時は恒温槽の水の入らぬ様特に注意が必 要!!それには set した後蜜蝋を塗っておく。(融けた蜜蝋をスポイトでゴム栓とDewar 瓶の間に流し次に小バーナーでやき付ける)。水銀閉鎖の方法は確実であるがやつかいである。 もちろんガラスを用いスリ合せにするのが一番よい。 特に有機液体を取扱ふ時にはゴム栓は侵されて困難である。
その他: 反応開始に於ける反応液の濃度は必ず恒温槽の温度と同一にしておく事、少くと も 5/1000 °C以内に。反応による温度上昇は 0.5 °C 以内に止めるがよい。そうしないと温度に よる反応速度の変化を来たす心配がある。
反応熱(Q)を求める時は反応が終了したと思はれる時より 20~30 min 長くまで data を取る事。
冷却速度恒数(K)及び水当量(W)について
W 測定の際の電流を一定にするためニクローム線 20 cm 程の小抵抗を作り細かく加減すればよい。 流す電流の強さは温度上昇 1 °C に 15 min 内外を要する(上述の加熱線では約 1 A)程度が適当と思う。
τ の測定には恒温槽との濃度差 0.8~1 °C よりなるべく少いところまで測定する事。 簡単に Kのみを知るには30~40 min でよい。
Dewar 瓶の真空度と K の値の関係の一例を示すと次の如くである。
| 1 atm | 0.0169 | 1~2 mmHg | 0.0169 |
| 1/2 | " | 1×10-1 mmHg | 0.0165 |
| 1/4 | " | 5×10-3 mmHg | 0.0136 |
| 10 mmHg | " | 1×10-4 mmHg | 0.0107 |
上の表で判る如く真空度はよくしないと意味がない。 温度によるK、W、t の変化の一例を示すと
| t °C | t | K | W |
| 30 | +0.020 | 0.0138 | 119.4 |
| 40 | +0.010 | 0.0150 | 120.1 |
| 50 | +0.002 | 0.0172 | 119.7 |
| 60 | -0.005 | 0.0180 | 119.4 |
即ち温度が高くなるとKは増大する。Wは一定である。